はじめに
「調理師はやめとけ」──学生時代に調理学校への進学を考えている時、親や先生から投げかけられることがある言葉です。また、現役の調理師の中でも「後輩に調理師になることを勧めない」という人も少なくありません。
なぜ、こうした言葉が出るのでしょうか?調理師という職業は、本当に「やめるべき」職業なのか、それとも実は大きな可能性を秘めているのか。
この記事では、アラフォー調理責任者として、調理業界に10年以上身を置く私が、調理師という職業の「本当の姿」をお伝えします。「やめとけ」と言われる理由、そして調理師として成功するための条件を、実体験を交えて解説します。
「調理師志望だけど不安」「今、調理師を辞めるべきか悩んでいる」という方は、ぜひこの記事をご覧ください。
「調理師はやめとけ」と言われる理由 — 5つの根拠
理由① 給料が低い
調理師が「やめとけ」と言われる最大の理由は、給料の低さです。
厚生労働省の統計データによると、調理師・料理人の平均年収は約359万円です。これは全業種の平均年収(約432万円)よりも70万円以上低いのが実態です。
給料が低い理由:
- 新人時代の給料が極めて低い(月給14~17万円)
- ボーナスが支給されない企業が多い
- 残業代が支払われないケースが多い
- 基本給の割合が高く、手当が少ない
特に、個人経営の飲食店や給食施設では、昇給機会が限定的であり、経験を積んでも給料が大幅に上がらないことが多いです。結果として「給料の割に労働が多い」という感覚を持つ調理師が多いのです。
詳しくは、当ブログの別記事「調理師の給料が本当に安いのか? — 年収実態と職種別比較表」をご参照ください。
理由② 労働時間が長い
調理師の労働環境で特に指摘されるのが、長時間労働です。
一般的な調理師の労働パターン:
- 朝6時出勤、夜10時退勤(16時間拘束、うち休憩時間含む)
- 実際の労働時間は9~11時間
- 週1~2日の休日
- 有給休暇がほぼ取得できない
月の残業時間が80~120時間に達することも珍しくなく、この長時間労働が調理師の過労やストレスの主要因になっています。
朝暗いうちに家を出て、夜も暗い中家に帰るなんてことは日常茶飯事です。
さらに問題なのは、この長時間労働に対して残業代が支払われていない、あるいは「みなし残業制」で固定化されているケースが多いということです。
理由③ 人間関係が厳しい
調理職は、職人気質の世界です。先輩・後輩の縦関係が強く、時には厳しい指導や言葉遣いが当たり前の環境になっています。
調理現場での人間関係の特徴:
- 先輩の指示は絶対(質問や意見はしにくい)
- 新人時代は「見て学ぶ」文化が強い
- 失敗に対する叱責が厳しい場合も
- 職人同士の競争意識が高い
- パワハラ、セクハラが常態化している職場も存在
実際に「人間関係が理由で調理師を辞めた」という声は非常に多いです。給料や労働時間以上に、人間関係のストレスが離職理由になっていることが多いのです。
理由④ 身体的・精神的な負担が大きい
調理師の仕事は、想像以上に身体と心に負担がかかります。
身体的な負担:
- 立ちっぱなしで腰痛になる人が多い
- 火を扱うため、火傷や熱中症のリスク
- 刃物を扱うため、怪我のリスク
- 夜間勤務による睡眠不足
精神的な負担:
- 毎日、大量の顧客・患者に食事を提供する責任感
- 衛生管理に関する責任(異物混入は許されない)
- 人間関係のストレス
- 長時間労働による精神疲労
私自身、この精神的な負担が原因で、20代の時に軽いうつ状態に陥った経験があります。調理師のメンタルヘルス課題は、業界全体で認識されるべき問題です。
理由⑤ キャリアパスが限定的
調理師として昇進できるのは「調理主任」「調理長」という管理職ポジションくらいです。これらのポジションに到達するには、通常5年以上の経験が必要です。
調理師のキャリアパスの限界:
- 昇進先が限定的(調理長で頭打ち)
- 企業によっては、昇進の道が完全に閉ざされている
- 調理以外のスキルを習得する機会が少ない
- 異業種への転職が難しい(調理スキルは他業種で活かしにくい)
結果として、「40代、50代になっても、立ちっぱなしで調理をしている」という人も珍しくないのです。定年までの長期的なキャリア設計が難しいというのが、「やめとけ」と言われる理由の一つです。
実際のところ — 調理師の離職率データ
調理業界の離職率は、全業種の中でも特に高いことが知られています。
調理業界の離職率:
- 飲食業全体の離職率:約15~20%(全業種平均12%)
- 調理職の離職率は、飲食業の中でも更に高い傾向(推定20~25%)
- 特に「新人時代の1年以内の離職率」は30%を超えると言われている
つまり、調理師の新人の3人に1人が、1年以内に退職してしまうということです。これは他の職業と比べて、極めて高い数字です。
この高い離職率こそが、「調理師はやめとけ」という言葉を生み出している根本原因の一つです。
では、なぜ調理師を続ける人がいるのか?
調理師として続けるメリット
一方で、調理師として10年、20年続ける人も存在します。彼らはなぜ、この過酷な職業を続けるのでしょうか?
メリット① 「ものを作る」やりがいが大きい
調理師の最大のメリットは、毎日、自分の手で「食事」という具体的な成果を生み出せることです。
営業職や事務職のように「成果が見えにくい」仕事と異なり、調理師は以下の瞬間に強いやりがいを感じます:
- 完成した料理が美しく出来上がった瞬間
- 顧客が笑顔で料理を食べている様子を見た時
- 「この料理、美味しかった」と感謝された時
- 自分が作った料理が誰かの思い出や喜びになった時
この「目に見える成果」と「顧客の反応」が、長時間労働や低給料を補うだけの価値を感じさせるのです。
メリット② 技術を磨く喜び
調理師は、経験を積むにつれて、自分の技術が目に見えて向上していくのを実感できます。
- 新人時代:基本的な切り方や火の通し方
- 3年目:複数の料理を同時調理できるようになる
- 5年目:新人を指導できるレベル
- 10年目:料理長として、メニュー開発なども手掛ける
この段階的な技術向上のプロセスは、職人気質の人にとって大きな満足感につながります。
メリット③ 生涯活かせるスキル
調理師として身に付けた技術は、生涯活かせます。定年後も、個人で料理教室を開いたり、レストランで働き続けたり、という選択肢があります。
これは他の職業にはない大きなメリットです。
メリット④ 給料の高い職場では、十分な年収が得られる
前述の通り、平均年収は359万円と低いですが、大手ホテルやレストランでの調理職であれば、年収400~500万円以上を得ることも十分可能です。
職場選びが成功すれば、給料に関するストレスは大幅に軽減されます。
調理師向き・不向きの診断チェック
「調理師を続けるべきか、辞めるべきか」という判断は、自分の適性によって大きく変わります。以下のチェックリストを使って、自己診断してください。
| 項目 | 調理師に向いている人 | 調理師に向いていない人 |
|---|---|---|
| 仕事へのやりがい | 「ものを作ること」に喜びを感じる | 給料や労働条件の良さを優先 |
| 身体的な耐性 | 長時間立ち仕事に耐性がある | 腰痛や体調不良になりやすい |
| 精神的な強さ | 厳しい環境でもストレス耐性が高い | 人間関係や批判に落ち込みやすい |
| 技術習得への関心 | 新しい技術や知識の習得に関心がある | 現状維持で問題ない |
| 職人気質 | 完璧さ、細部へのこだわりがある | おおらかで細かいことを気にしない |
| 給料への期待 | 給料より、やりがいを優先できる | 給料を重視する |
| キャリア設計 | 調理長を目指すなど、目標がある | 将来のキャリアが不明確 |
| 適応力 | 新しい環境にすぐ適応できる | 環境の変化に弱い |
診断: 「調理師に向いている人」の項目が6つ以上 → 調理師続行の可能性が高い
「調理師に向いていない人」の項目が5つ以上 → 他職種への転職を検討した方が良い
「調理師はやめとけ」は、職場次第で変わる
ここまで読んでいただければ気付くと思いますが、「調理師はやめるべきか」という判断は、職場によって大きく変わるのです。
調理師を続けるべき職場の条件
以下の条件を満たす職場であれば、調理師は「やめるべきではない」職業になります。
条件① 給料が十分である
- 基本給が23万円以上
- 年2回以上のボーナス支給
- 残業代がしっかり支払われる
- 昇進時の昇給が明確
条件② 労働時間が適切である
- 月の残業時間が80時間以下
- 週2日以上の休日がある
- 有給休暇が取得しやすい
- シフト制で無理のないスケジュール
条件③ 人間関係が良好である
- パワハラやセクハラがない
- 新人教育が体系的に行われている
- 先輩後輩の関係が良好
- 相談しやすい上司がいる
条件④ キャリアパスが明確である
- 3~5年で昇進の可能性がある
- 調理長以外のキャリアパスもある
- 研修や資格取得の機会がある
これらの条件を満たす職場は、実は調理業界の中に存在します。大手ホテルチェーン、有名レストラン、一部の給食企業などがその例です。
調理師を辞めるべき職場の特徴
一方、以下のような職場では、調理師を続けることは困難です。
- 給料が低い(月給18万円以下)且つ昇給がない
- 月の残業が常に100時間以上
- パワハラやセクハラが常態化している
- 新人教育が行われていない
- 昇進の道が完全に閉ざされている
- 経営が不安定で、倒産のリスクがある
このような職場にいるのであれば、「調理師を辞める」のではなく、「今の職場を辞める」ことをお勧めします。つまり、給料と条件の良い別の調理職場への転職を検討すべきということです。
調理師から他職種への転職 — 現実的な選択肢
もし、調理師という職業そのものが合わないと判断した場合、他職種への転職も選択肢です。
調理師から転職しやすい職種
① 飲食店経営・起業
調理スキルを活かして、小規模な飲食店を開業する選択肢があります。ただし、経営スキルや資金が必要です。
② 栄養士・フードコーディネーター
調理師の資格を活かしつつ、栄養学やコーディネーションの知識を習得することで、新しいキャリアパスが開けます。
③ 食品企業への転職
調理経験を活かして、食品メーカーの製品開発部門や品質管理部門への転職も考えられます。
④ 介護職・福祉施設の調理
労働条件が良い介護施設の調理職への転職は、実は多くの調理師が選ぶ選択肢です。
⑤ 完全な異業種への転職
調理経験を活かさず、営業職や事務職など、完全に異なる職種への転職も可能です。ただし、年齢や経験によっては、給料が下がる可能性があります。
調理師を続けるか、辞めるかを判断するための3つの問い
「調理師はやめるべきか」という判断を下す前に、以下の3つの問いに自分自身に問いかけてください。
問い① 今の職場が理由か、調理師という職業が理由か?
多くの場合、「調理師を辞めたい」という思いは、実は「今の職場を辞めたい」という思いです。
給料や人間関係に不満がある場合は、異なる職場への転職を検討する価値があります。
問い② 調理師として達成したい目標がるか?
「調理長になりたい」「自分の店を持ちたい」「フランス料理の技術を極めたい」など、調理師として達成したい目標があるかどうかで、判断が変わります。
明確な目標がある場合は、給料や労働条件がある程度良い職場を探して、その目標を追求する価値があります。
問い③ 他にやりたい仕事があるか?
「営業職に転職したい」「起業したい」など、調理師以外にやりたい仕事が明確にある場合は、転職を検討した方が良いかもしれません。
一方、「特にやりたい仕事がない」という場合は、調理師として道を極めることも一つの選択肢です。
調理師を続けるなら、今すぐ実施すべき3つのアクション
もし、調理師として続けることを決めたなら、以下の3つのアクションを今すぐ実施してください。
アクション① 職場を見直す
今の職場が「調理師を続けるべき職場の条件」を満たしているか確認してください。満たしていなければ、給料と条件の良い別の職場への転職を検討してください。
転職サイト「フーズラボ」や「栄養士ワーカー」を利用して、給料が高く、労働環境が良い職場の求人を探してください。
アクション② スキルアップに投資する
調理師としてのキャリアを高めるために、以下のスキルアップに投資してください。
- 調理技術の高度な習得(特定の料理ジャンルの専門化)
- 栄養士資格の取得
- HACCP管理資格の取得
- 語学スキル(ホテルでの評価向上)
これらのスキルは、給料交渉や昇進の際の強い武器になります。
アクション③ メンタルヘルスを大切にする
調理師の仕事はストレスが大きいため、メンタルヘルスの維持が重要です。
- 十分な睡眠を確保する
- 定期的に休息を取る
- ストレスを感じたら、早めに相談する
- 必要に応じて、カウンセリングを受ける
メンタルヘルスの不調は、調理師の離職理由の大きな要因です。自分の心の健康を最優先にしてください。
「調理師はやめとけ」の本当の意味
最後に、この記事のタイトルでもある「調理師はやめとけ」という言葉の本当の意味をお伝えします。
「調理師はやめとけ」という言葉は、実は以下の3つの意味を含んでいます:
① 準備なしに調理師になるな
給料が低く、労働時間が長く、人間関係が厳しいという現実を理解した上で、それでもなりたいと思うのなら、調理師になるべきです。しかし、「何となく」という理由で調理師を目指すのは避けるべきということです。
② ブラック企業の調理職には行くな
給料が極めて低く、労働環境が劣悪な職場は、確かに「やめるべき」です。しかし、そのような職場ばかりが調理師の職場ではありません。給料と条件の良い職場を探すべきということです。
③ 調理師として成長する気がないなら、辞めた方がいい
調理師として技術を磨き、キャリアを高める意思がないのであれば、調理師は向いていない職業です。そのような場合は、他職種への転職も検討すべきということです。
最終メッセージ — 調理師という職業の本当の価値
調理師という職業は、確かに大変です。給料は低く、労働時間は長く、人間関係は厳しい──これらは揺るがない事実です。
しかし、同時に調理師という職業は、人の人生を豊かにできる、非常に価値のある職業でもあります。
- 患者さんが、病院での退院の日に「最後に好きな料理が食べたい」と希望する──それを叶えるのは調理師
- 高齢者が、老人ホームでの退屈な毎日の中で、食事の時間を最大の楽しみにしている──その楽しみを作るのは調理師
- レストランでの特別な日に、家族が思い出を作っている──その思い出の中心にあるのは調理師の作った料理
調理師という職業は、直接的に「人の喜び」「人の健康」「人の思い出」を創造できる、数少ない職業です。
「調理師はやめとけ」という言葉は、時には「準備なしに飛び込むべきではない」という警告ですが、同時に「覚悟を決めて取り組むなら、非常にやりがいのある職業だ」という励ましでもあります。
調理師という職業を選ぶなら、給料と条件の良い職場を見つけ、技術を磨き、人の喜びを創造することに全力を注いでください。
今の職場に不満があるなら
もし、現在の職場に不満がある場合は、迷わず転職を検討してください。
給料が高く、労働環境が良い調理職場は存在します。それらの職場に転職することで、調理師という職業の価値観は大きく変わります。
調理師専門の転職サイトを活用して、自分に合った職場を見つけてください。
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