職場での悩み

【飲食業界のパワハラ事例と対策】理不尽な職場から自分を守る方法

はじめに

飲食業界は、華やかな外食産業の裏で、過酷な労働環境や人間関係のトラブルがつきまとう業界でもあります。中でも深刻なのが**「パワーハラスメント(パワハラ)」**の問題です。高圧的な指導、長時間労働の強要、精神的な追い込み……。こうした行為は働く人の心と体を蝕み、最悪の場合には離職やメンタル不調を引き起こします。

2020年に施行された「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」により、企業にはパワハラ対策が義務付けられましたが、飲食業界では依然として問題が根強く残っています。特に中小規模の店舗や個人経営の飲食店では、管理体制が不十分であることが多く、被害者が泣き寝入りしてしまうケースも少なくありません。

本記事では、飲食業界で実際に起きているパワハラ事例を紹介しながら、その背景にある構造的な問題や、自分を守るためにできる具体的な対処法を分かりやすく解説します。この記事を読むことで、今つらい思いをしている方が「自分の働き方を見つめ直し、声を上げる勇気」を持てるようになることを目指しています。

第1章:飲食業界でよくあるパワハラの具体的な事例

飲食業界では、忙しさと人手不足から職場内のストレスが高まりやすく、それがパワハラに発展してしまうことが少なくありません。ここでは、現場で実際に報告されている代表的なパワハラ事例を紹介します。

1. 長時間労働の強要とシフト圧力

「人が足りないから出勤して」「明日も休まないでくれ」——こんな言葉を何度も聞かされていませんか?

正社員・アルバイトを問わず、希望していない時間外勤務や休日出勤を強要されるケースは後を絶ちません。「断ればシフトを減らされる」「評価が下がる」と思い込まされ、無理な勤務に応じざるを得ないという環境自体がパワハラの温床となっています。

2. 大声での叱責や人格否定

厨房やホールで怒鳴り声が飛び交う職場、経験ありませんか?

「何度言ったら分かるんだ!」「お前は飲食に向いてない」など、指導を超えて人格を否定する言動は明らかにハラスメントです。怒鳴ることで部下を動かすというやり方は、未だに一部の店舗で「指導」と誤解されがちですが、これは働く人の自尊心を著しく傷つける行為です。

3. 休日や退勤後の無理な呼び出し

「ちょっと手伝ってくれないか?」「人が足りないから出てこい」と、プライベートな時間に突然の連絡が入り、休めない環境に追い込まれている人も多くいます。

特にLINEなどのSNSを使って私用の連絡をするケースでは、「既読スルーできない」「返信しないと怒られる」といったプレッシャーがあり、精神的な拘束が発生します。これは私生活への不当な干渉であり、立派なハラスメントです。

4. SNSでの監視・嫌がらせ

現代のハラスメントには、デジタルな監視や嫌がらせも含まれます。

たとえば、社員やアルバイトのSNSを店長や同僚がチェックし、「昨日飲みに行ってたの?今日疲れてる理由それでしょ」などと私生活に干渉するケース。また、LINEグループで名指しで責められる、返信が遅いことで陰口を叩かれるといった事例も少なくありません。

5. 新人いじめ・見せしめ文化

「自分も通ってきた道だから」「耐えられないのは根性が足りない」と、新人に対してわざと厳しく当たる“見せしめ”の文化も依然として存在しています。

これは悪質な上下関係の強要であり、新人に精神的なプレッシャーを与えることで職場全体に緊張感を持たせようとする行為です。しかしこのような環境では、人材が定着せず離職率が高くなり、結果として職場のストレスが悪循環に陥ります。

第2章:なぜ飲食業界でパワハラが起きやすいのか

パワハラはどの業界でも起こり得ますが、飲食業界では特に多くの事例が報告されています。なぜこの業界ではパワハラが発生しやすいのでしょうか?その背景には、いくつかの構造的な問題があります。

1. 体育会系の上下関係が根強い

飲食業界では、厳しい上下関係や「先輩絶対」文化が今も色濃く残っています。これは、師弟制度のような古い体質が職場に残っているためで、「先輩の言うことには従うのが当たり前」「怒られて育つのが当然」といった価値観が根付いています。

こうした風土は、パワハラを正当化しやすくする危険性があります。「自分の時もそうだった」と言って指導という名の暴言や嫌がらせを繰り返すことが、次の世代に引き継がれてしまうのです。

2. 人手不足によるストレスと責任の偏り

慢性的な人手不足が続く飲食業界では、現場の負担が一部のスタッフに偏りやすくなります。特に店長やリーダー格は、長時間勤務やシフト管理など多くの責任を背負っており、そのストレスが部下や新人に向けられるケースが多発しています。

これはいわば「上からの圧力のはけ口」を下にぶつける構造になっており、職場全体に負の連鎖を生み出してしまいます

3. 労働環境や管理体制の整備不足

中小企業や個人経営の飲食店では、労務管理が形式的または無関心であることが多く、問題が起きてもすぐに対応できる体制が整っていません。

・就業規則が曖昧
・相談窓口がない
・ハラスメント教育が行われていない

このような環境では、パワハラが「見えない」「止められない」状態になりやすいのです。

4. 「我慢が美徳」という古い価値観

飲食業界には「苦労して一人前」「文句を言わずに働くのが美徳」という風潮が残っています。これは一見、職業意識の高さのようにも見えますが、過剰な自己犠牲を正当化する危険な思想です。

この価値観がある限り、ハラスメントを受けても「自分が悪い」「弱いからダメなんだ」と被害者が自分を責めてしまい、問題が表面化しづらくなります。

第3章:自分を守るためにできること(初期対応編)

パワハラの被害を受けたとき、まず大切なのは**「自分の心身を守ること」**です。「我慢すればそのうち良くなる」と考えるのは危険です。ここでは、被害にあったときにすぐに実践できる初期対応策を紹介します。

1. 記録を取る(日時・内容・証拠)

パワハラを受けたときは、必ず具体的な記録を残しておきましょう。後から証拠として活用できます。

【記録すべきポイント】

  • 日時・場所
  • 誰から・どのような言動を受けたのか
  • その時の自分の対応や状況
  • 周囲にいた人(目撃者)がいればその名前も

メモ帳でもスマホでも構いませんが、**メールやLINEのスクリーンショット、音声録音(法的には会話の録音は基本的に認められています)**などのデジタル証拠も有効です。

2. 第三者に相談する(同僚、家族、友人)

信頼できる人に相談することで、自分の感覚が間違っていないことを再確認できます。家族や友人に話すのも良いですが、職場内で信頼できる同僚がいれば、まず一度話してみるのも有効です。

特に複数人で同じように感じている場合は「個人のわがまま」ではなく「職場の問題」として認識されやすくなります。

3. 心身の異変に気づく重要性

パワハラの影響で心身に異変が出てきた場合、それは重大なサインです。以下のような症状が続く場合は医療機関の受診を検討しましょう。

  • 不眠や悪夢
  • 食欲不振
  • 動悸、吐き気
  • 朝起きるのが極端につらい
  • 涙が止まらない、感情の起伏が激しい

心療内科や精神科を受診することは決して弱さではなく、自己防衛の手段です。

4. 社内の相談窓口や労働組合の利用

企業によっては、ハラスメント相談窓口や労働組合が設置されている場合があります。特に大手飲食チェーンでは対応窓口があることが多いです。

ただし、中小企業や個人経営の店舗では整備されていないこともあります。そんなときは、外部機関の相談窓口の活用を視野に入れる必要があります。

第4章:法律的な対処と外部機関の活用

パワハラは個人の努力だけで解決できる問題ではありません。明らかに法に反する行為については、外部の機関や法律の力を活用することが必要です。ここでは、法的に認められている対処法と利用できる外部機関について解説します。

1. パワハラの法的定義とその根拠

パワハラについては、**労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)**によって明確に定義されています。

【パワハラの定義(厚生労働省ガイドラインより)】

以下の3つの要素をすべて満たす場合、パワハラとされます。

  1. 優越的な関係を背景に(上司から部下、ベテランから新人など)
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  3. 労働者の就業環境を害すること

この基準に該当する場合は法的に違法行為として認定され、会社側に対策が義務付けられています

2. 労働基準監督署や労働局に相談する方法

まず最初に相談すべき外部機関は、労働基準監督署労働局です。

  • 労働基準監督署(通称:労基)
     → 主に労働条件や残業代未払いに関する相談が中心
  • 都道府県労働局(総合労働相談コーナー)
     → パワハラや職場のトラブル全般に対応

【相談の流れ】

  1. 電話またはWebで予約・問い合わせ
  2. 対応窓口で事実確認・相談内容を整理
  3. 必要に応じて会社側への指導や是正勧告

労働局は無料で相談可能であり、匿名での相談も受け付けています。

3. 弁護士への相談と訴訟の可能性

パワハラの被害が深刻で、損害賠償請求や慰謝料請求を検討する場合は、弁護士に相談するのが適切です。

  • 弁護士会の法律相談センター
  • 法テラス(日本司法支援センター) → 経済的に困窮している場合は無料相談や弁護士費用の立て替え制度あり

訴訟までは考えていなくても、内容証明郵便での警告交渉による和解も可能です。

4. 公的支援制度の活用

日本には、労働者のメンタルや権利を守るための無料相談窓口が複数あります。

【主な相談窓口】

  • こころの耳(厚生労働省) → メンタルヘルスの相談
  • みんなの人権110番(法務省) → ハラスメントを含む人権相談
  • 労働相談ホットライン(連合) → 労働組合による無料労働相談

これらの機関を積極的に活用し、「自分ひとりで抱え込まない」ことが解決のカギです。

第5章:転職や職場環境の見直しも視野に

パワハラに耐え続けることが「美徳」だと考えがちな日本の職場文化。しかし本来、働く場所を選ぶことは労働者の権利です。場合によっては「辞める」「転職する」という選択肢を取ることが、自分の人生を守るための最善策になります。

1. 転職は「逃げ」ではなく「戦略的撤退」

パワハラの被害を受けたとき、「ここで辞めたら負けだ」「自分が弱いせいだ」と思い込んでしまう人が多いですが、それは誤った認識です。

【転職の本質】

  • 自分の価値観や働き方に合わない場所を見限る勇気
  • 「耐える」よりも「環境を変える」方が合理的
  • 無理を続ければ心身に深刻なダメージが残る

転職は自分のための選択であり、決して逃げではありません。

2. 自分に合った職場を見極めるポイント

次に働く場所を選ぶときは、以下のポイントに注目しましょう。

  • 企業の労働環境 → 残業時間、休日取得率、離職率
  • 職場の雰囲気 → 面接時にスタッフの表情や働き方を観察
  • 労働条件 → 給与や福利厚生も重視
  • 相談体制の有無 → ハラスメント対策が整備されているか確認

最近では**求人サイトや口コミサイト(転職会議・OpenWorkなど)**で企業の内部評価を事前に調べることも可能です。

3. 働きやすい飲食企業の特徴とは

飲食業界の中にも、働きやすさに配慮した企業が増えています。

【働きやすい企業の特徴】

  • シフトの柔軟性がある
  • スタッフ同士のコミュニケーションが活発
  • ハラスメント研修など教育体制が整っている
  • 適正な人員配置で業務過多を防いでいる
  • 長く働いているスタッフが多い

「飲食業界=ブラック」というイメージは過去のもの。自分の価値を活かせる職場は必ずあります。


今いる場所がすべてではないということをぜひ忘れないでください。職場を変えることで人生そのものが好転するケースは数多くあります。

おわりに

飲食業界で働く人々は、多くが真面目で責任感が強く、職場やお客様のために全力を尽くしています。しかし、だからこそ理不尽なパワハラに耐えてしまう傾向が強くなりがちです。

繰り返しますが、パワハラは絶対に許されるものではありません。
「自分が悪いから」「みんな我慢しているから」と思い込まずに、まずは自分の心と体を最優先に考えてください。

  • 記録を残す
  • 誰かに相談する
  • 必要なら法律の力を借りる
  • そして時には**「逃げる」ことも立派な戦略**

これらすべてがあなたを守るための有効な手段です。

最近では、飲食業界も少しずつ改善が進みつつあります。
労働環境を良くしようと努力している店舗や企業も増えていますし、転職市場でも「働きやすさ」を重視した求人が増えています。
声を上げる人が増えれば増えるほど、業界の意識も変わっていきます。

「我慢しない働き方」を選び、あなた自身の人生を大切にしてください。
あなたが幸せに働ける場所は、必ずどこかにあります。

ABOUT ME
carrot
30代の調理師で2児の父。 専門店で1年働いた後、リゾートホテルで働くもうつ状態に。 復帰後、転職活動を経て現在は調理責任者。 自身の経験から調理現場での成功や失敗を共有し、読者が適切なキャリアを見つける手助けをするブログを執筆中。